榑松由佳子先生の論文「Adrenal Crisis Associated With COVID-19 Vaccination in Patients With Adrenal Insufficiency」が2023年8月14日JCEM Case Reportsに公開されました。
この論文は自験例の下垂体機能低下症に伴う中枢性副腎不全の患者さんでコロナワクチン接種後に副腎クリーゼを起こした3症例をまとめるとともに、ワクチン後のクリーゼについてのこれまでの文献レビューをしたものです。その結果、以下の興味深いことが明らかになりました。今後コロナワクチンは定期接種化される可能性もありますし、副腎不全の患者さんと診療されている先生たちにとって非常に重要な情報を提供できたと思います。
重要なポイントは以下の通りです。
オープンアクセスですので、ご興味のある先生方は是非ご覧ください。
https://academic.oup.com/jcemcr/article/1/4/luad079/7242395?searchresult=1
高橋教授の英文総説 “Paraneoplastic autoimmune hypophysitis: a novel form of paraneoplastic endocrine syndrome”がEndocrine JournalのFeatured article に選ばれ、表紙を飾っています。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/endocrj
このParaneoplastic autoimmune hypophysitis、傍腫瘍自己免疫性下垂体炎は高橋教授のグループが多くの仲間と共に長年携わってきたCase-oriented research, Disease-oriented researchの成果で、20年以上前に見出し新たな疾患概念として提唱した抗PIT-1下垂体炎の原因を解析するうちに傍腫瘍症候群として起こることが明らかになり、その後ACTH単独欠損症、免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎の一部も同様の機序であることを見出して、傍腫瘍自己免疫性下垂体炎として報告したものです。
表紙のイラストにわかりやすくシェーマにしたのですが、いずれも随伴する腫瘍において、異所性に下垂体抗原が発現し、免疫寛容破綻が生じることによって、特異的な下垂体ホルモン欠損が引き起こされるという新たな機序です。
これらの成果は、国際内分泌学会、欧州内分泌学会に招かれて特別講演を行い大きな注目を頂きました。また今回のEJだけではなくEndocrine Review, EJE, Best Prac Res Clin Endocrinol Metabにおける総説の機会、現在改訂中のWilliams textbook of Endocrinologyの執筆の機会も頂きました。また新たな切り口を加えて現在Nature Reviews in Endocrinologyに執筆中です。
日本発の疾患概念としては、古くは橋本病やIgG4関連疾患などもありますが、その一つとして貢献できたことは非常に幸運かつ光栄なことです。改めて一緒に困難を乗り越えてきた若い先生、仲間たちに心から感謝いたします。そして奈良医大でも新たな挑戦を続けたいと思います。
榑松由佳子先生の“Adrenal crisis associated with COVID-19 vaccination in patients with adrenal insufficiency: A literature review”がJCEM Case reportsにアクセプトになりました!
この論文は、私たちが経験した副腎不全に対する補充療法中にCOVID-19ワクチン接種後に副腎クリーゼをきたした3例とともに、これまで世界で報告された症例と合わせて9症例をレビューして考察を加えたものです。
インフルエンザなどこれまでのワクチン後にクリーゼをきたすことはないのですが、COVID-19ワクチンは副反応が強いためにクリーゼのリスクがあります。ワクチンの種類によってもタイミングに特徴があること、どのような時にヒドロコーチゾン増量が必要なのかなどをポイントで解説しています。出版されたら詳細を報告しますので、ご興味のある先生はどうぞご覧ください。
この3年の間にこれまで論文を書いたことがない先生も書けるようになってきました。現在、非常に面白い症例報告、レセプトビッグデータの論文を準備、投稿中です。引き続き、講座のメンバーと成長を感じつつ楽しみながら患者さんのためになるような論文を発表していきます。
名古屋で行われた第96回日本内分泌学会学術総会が無事終わりました。
今回は症例報告、レセプトビッグデータ解析、シンポジウム等合わせて中上先生が「APOA5変異を有する2型糖尿病合併原発性高カイロミクロン血症妊婦の一例」、岡田先生が「高K血症を伴う若年性高血圧: KLHL3遺伝子にde novo変異を認めた偽性低アルドステロン症II型の1例」、小泉先生が「レセプトビッグデータを用いた妊娠後骨粗鬆症の実態の解明」、紙谷先生が「レセプトビッグデータ解析により明らかになった免疫チェックポイント阻害薬による1型糖尿病の特徴と予後」、中島先生が「レセプトビッグデータを用いた食習慣による骨粗鬆症リスクへの影響の解析」、西岡先生が「レセプトビッグデータによる内分泌代謝疾患の病態解明」、高橋教授がシンポジウムで「さまざまな立場から見た成人GH分泌不全症の治療―内科の立場から」についてそれぞれ発表を行いました。
いずれも予演会で十分練ったものだったので皆さん素晴らしい発表になったと思います。そして私たちの研究についてもかなり注目されることが増えてきました。糖尿病学会に引き続き私たちの講座の存在感もアピールできたと思います。今回、現地参加で様々な先生たちと交流できたことも大変有意義でした。これから非常に面白い論文が続いて行きます。引き続きメンバーと楽しく勉強していくとともに、患者さんのためになる発見、発表を目指していきたいと思います。
医局説明会のお知らせです。
ハイブリッドで行いますので、Web参加も歓迎です。
どうぞお気軽にご参加ください!
内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブックが発売されました。
高橋教授が金藤教授とともに編集長を務め、内分泌学会と糖尿病学会が初めて一緒にガイドブックを作成したものです。これから内分泌代謝・糖尿病内科領域を学ぶ若い先生たちだけではなく、指導医の先生にも役立つ内容になっています。
作成にあたり、内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医のカリキュラムを網羅するとともに、実践に必要な知識だけではなくその考え方を学べるようにしました。例えばガイドラインに合わないときの考え方という項目や内分泌代謝疾患エマージェンシーとして、DKAやHHS、副腎クリーゼ、高Ca血症などの実践的な対応をまとめたチャプターもあります。またコラムとして最新の情報やトピックス、トリビアを入れて楽しく知識を増やすことができます。
この場をお借りして編集委員、執筆、査読をして頂いた先生方に心から感謝申し上げます。
516ページ、税込9240円とお手頃になっております。糖尿病学会年次学術集会、内分泌学会総会で絶賛発売予定です。
高橋教授の総説 Paraneoplastic autoimmune hypophysitis: a novel form of paraneoplastic endocrine syndromeがEndocrine J で公開されました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrj/advpub/0/advpub_EJ23-0050/_article/-char/en
Paraneoplastic autoimmune hypophysitis傍腫瘍自己免疫性下垂体炎は高橋教授が多くのメンバーたちと共に主に神戸大学で見出した新たな疾患概念「抗PIT-1下垂体炎」「傍腫瘍症候群としてのACTH単独欠損症」「傍腫瘍症候群としてのPD-1/PDL-1阻害剤関連下垂体炎」の3つの病態を包括的に提唱した疾患概念です。
通常の下垂体炎においては多くの場合、非特異的に前葉あるいは後葉ホルモンが障害されるのに対し、この傍腫瘍自己免疫性下垂体炎では、腫瘍における異所性のホルモン(POMC)あるいは転写因子(PIT-1)発現が起こり、免疫寛容破綻が生じて自己抗体とともに特異的細胞傷害性T細胞が下垂体前葉細胞を傷害するという共通の機序によって発症します。
その結果、「抗PIT-1下垂体炎」ではPIT-1依存性のGH, PRL, TSH分泌低下が、「傍腫瘍症候群としてのACTH単独欠損症」「傍腫瘍症候群としてのPD-1/PDL-1阻害剤関連下垂体炎」ではACTH単独欠損症をきたします。
この新たな疾患概念は国際的にも注目され、2018年国際内分泌学会、2023年欧州内分泌学会のプレナリー演者、マギル大学特別講演演者として招待されています。
現在はさらに症例を集積、発症機序の解明、疾患モデルの作成、ビッグデータによるアプローチを行なっています。
ご参考になりましたら幸いです。
紙谷史夏先生の症例報告論文Combined Hypophysitis and Type 1 Diabetes Mellitus Related to Immune Checkpoint Inhibitors がJ Endocr Soc
に出版されました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36694808/
私たちは免疫チェックポイント阻害薬の内分泌irAEである下垂体炎と1型糖尿病の合併例を3例集積し、神戸大学の福岡先生、藤田先生たちと共同で発表しました。これまでの報告と合わせると、ほとんどがPD-1阻害剤によって発症し、中央値24週で下垂体炎が、32週で1型糖尿病が発症していました。いずれも適切な治療を行うと生命に関わるirAEなので注意が必要です。
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