教授挨拶

この度、奈良県立医科大学において糖尿病・内分泌内科学講座が新設され2020年6月より初代教授を拝命した高橋 裕と申します。

 当講座設立の流れとして、もともと2013年に奈良県からの寄付講座として糖尿病学講座が設立され、石井均教授が着任されました。一方内分泌内科は内科学第3講座の中で活動をして参りました。今回寄付講座の終了に伴い新たに糖尿病・内分泌内科学講座が誕生いたしました。

 私は神戸大学医学部を卒業し、神戸大学医学部第3内科に入局、内科医としての研修の後、学位を取得し3年間の米国留学を経て、神戸大学において糖尿病・内分泌分野の研鑽を積んで参りました。そしてこの度、奈良県立医科大学に赴任させて頂きました。

 このように当講座は新しく発展途上ですが、メンバーは糖尿病・内分泌学を深く学び成長したいというやる気と希望に溢れています。奈良県では糖尿病・内分泌代謝科いずれの専門医も非常に少なく、まだまだ患者さん、社会のニーズにお応えできておりません。奈良県、そして日本の糖尿病・内分泌分野を担う人材を育成することは非常に重要なミッションです。私の役割は講座としてそのような社会のニーズに答えながら、メンバーそれぞれが目標と希望を持って成長できる場を作ることだと考えています。そして講座のモットーは、何よりも和を尊び、切磋琢磨しながら楽しく学ぶことです。

 糖尿病・内分泌学は全身を統合的に理解し、俯瞰的アプローチが必要な、非常に内科らしい分野です。そして病態をロジックに理解できる楽しさは一度経験すると病みつきになります。特に内分泌学における検査データから謎を解いていく過程はあたかも上質の推理小説を読むような楽しさがあります。学べば学ぶほど奥が深く、私自身、今も新たな気づきや学びの喜びを感じながら勉強しています。また糖尿病診療では、多くの種類の糖尿病治療薬を患者さんの病態に応じて使い分け血糖をコントロールし合併症を防ぐことで、エキスパートとしての腕を発揮することも大切ですが、血糖が上昇しているのは結果であって原因ではありません。なぜこの患者さんは食べ過ぎるのか、運動ができないのか、治療に向き合えないのかを深く理解するとともに、寄り添い信頼関係を築いて行動変容をいかに引き起こすのかこそがプロの技になります。そして最終的な目標は予後の改善とともにQOLを改善し、いかに患者さんに幸福になって頂くかではないかと思います。内科に興味があって、じっくりと病態を考え理解し、患者さんとのコミュニケーションを楽しみたい、そしてチーム医療を実践して患者さんの問題を一緒に解決していきたい先生にはぴったりの診療科だと思います。そして患者さんとは様々なライフステージをともに分かち合い一生付き合いながら、治療効果を一緒に喜ぶことのできる領域でもあります。

 大学の他の重要なミッションとして研究があります。医学研究はエキサイティングで最高の知的作業です。私自身は、大学院生の頃よりCase-oriented research, Disease-oriented researchに取り組んできました。多くの仲間とともに幸運にもいくつかの新しい病気を見つけて報告することができました。例えば成長ホルモン遺伝子変異による内因性アンタゴニストや、成長ホルモンが成人で欠乏するとNASHになること、傍腫瘍症候群として下垂体が自己免疫機序で障害される新しい病気「抗PIT-1下垂体炎(抗PIT-1抗体症候群)」を見出し、命名してその発症機序を明らかにしてきました。
 研究には大変なこともありますが、世界で誰も見たことのないものを自らが発見した時、苦労した論文が出版された時、自分の論文や名前が教科書に記載された時などの喜びは何ものにも代え難いものがあります。そしてそのことによって救われる患者さんがいることは私たちに勇気とエネルギーを与えてくれます。研究にも様々な種類がありますが、私たちは患者さんの病態や疾患に直結して、患者さんを救うことのできる研究に取り組んでいます。また研究は国際的に共通であり、学会活動などを通じて世界中に友人ができることも大きな楽しみの一つです。
 そして臨床医としてよきPhysicianになるためにはリサーチマインドは非常に大切です。研究の経験によって、臨床医としても幅を広げ、高い視点を持って病態を深く理解することができるようになりますので臨床医としても必ずプラスになります。また近年、研修制度や専門医制度の変更に関連してPhysician Scientistは非常に減っていますが、医学には常に限界がありそれを乗り越えるために、そして今わからない病気を解明し、治らない病気を直すことができるようにするためにはPhysician Scientistは必ず必要です。決して専門医を取ることだけが医師としてのゴールではありません。研究に少しでも興味のある先生は是非チャレンジして学位も取得して一回り大きく成長して頂きたいと思います。

 女性医師で仕事と家庭の両立に悩む先生も多いと思います。当講座には多くの女性医師の仲間がいます。そして産休中、育休中にも勉強が続けられるように多くの工夫を行なっています。例えば毎週行っている内分泌代謝Web勉強会では、その名の通りWebで行い自宅からも参加が可能です。学内だけではなく学外からの参加や、講師についても日本中のエキスパートに重要なトピックスをお話しして頂いています。そして家庭と両立しながら診療、研究についても両立し、成長を続けることができるよう配慮しています。

当講座では、糖尿病・内分泌分野において大きな志とやる気に溢れた学生諸君、若い医師の皆さんが仲間に加わって頂けるのを心からお待ちしています。

奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座
教授 高橋 裕

高橋教授のエッセイ

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