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志を持った若い先生たちへ:メンターとロールモデルを持とう

2022.02.07

志を持った若い先生たちへ:メンターとロールモデルを持とう

医学部を卒業して研修を始めよう、何を専門にしようか、どの大学で研修をしようかと迷っている先生、そしてどのような研究室で大学院として研究を始めようかと考えている先生もおられると思います。そのような先生方に一つのアドバイスをしたいと思います。それはロールモデルを見つけること、メンターを探すことです。

メンターというのは仕事上(または人生)の指導者、助言者のこと、そしてロールモデルというのは自分がキャリアを積み重ねていくに際して、目標となるような指導者のことです。

臨床研修について、前期研修、専攻医としての後期研修、そしてその後の専門医を目指した研修、さらにキャリアアップを目指す時期がありますが、医師は本来一生勉強が必要です。医局に属さずに臨床研修を考える場合には、どうしてもまず前期研修、そして後期研修、さらに専門医研修とぶつ切りで考えがちになります。総合内科専門医を取るために、さらにそれぞれのサブスペシャルティの専門医を取るために、それぞれ履修すべき内容や内科系ならJ-Osler、そして専門医受験要件など与えられた課題をこなすので精一杯になってしまうことも多いでしょう。

しかしながら、よく考えてみましょう。医師免許もそうですが、専門医も単なる資格にすぎません。資格はあくまで必要最小限の要件であって、試験に通ったから十分な実力がついているわけではありません。最も重要なことは専門医に値する実力をつけて、自信を持って患者さんの診療に携わることです。そして一生勉強を続けてアップデートの医療を実践し続けることです。

そのような視点は短期的な研修では身につきにくいのです。皆さんが一生のキャリアパスを描くにあたって、長期的な視点からのアドバイスは大切です。研修先を選ぶ場合にも、病院の立地や給料などが気になると思います。もちろんそこにしっかりとしたロールモデルや指導医がいれば問題ないのですが、必ずしもそうとは限りません。また立派な大学病院でも、適切なロールモデルやメンターとなりうる人がいないところもあります。

若い時に、学ぶべきことは知識や技術も大切ですが、なぜそれが必要なのか、どうすれば成長できるのか、またそもそも何のために私たちは医師になり働いているのか、私たちがどのように考えどのように努力、行動すれば世界を少しでもよりより方向に変えることができるのか、そしてやりがいを持って仕事に取り組み自分自身も幸せになれるのかなどの考え方を学ぶことが最も大切です。

日本人(とは限らないかもしれませんが)の一般的な習性として、目的と手段を混同してしまい、手段を目的化していることがよくあります。これは偉い人達でもたくさんあり、本人は全く気づいていません。さらに言うなら、お金や地位や結婚も本来はそれら自体は手段であって目的ではありません。これらは必要なものかもしれませんが、持っているから直ちに幸福になるわけではありません。その点で何のためにそれらを手に入れたいのか、手に入れて何をしたいのか、どう生きたいのかというビジョンが大切です。

先ほどの専門医の取得もそうです。専門医の資格を取ることは目的ではなく、よりよい医師になるための手段なのです。皆さんがメンターを選ぶときには、そのような目的についてしっかりと指導してくれる、自分の狭い視野ではなく、高い視点からアドバイスをしてくれる、あるいは背中を見たときに自然とそのようなことを学べるかどうかを見極めましょう。そしてとかく自慢ばかりする指導医や他人を支配しようとする指導医や上司には気をつけましょう。

また本当のメンターは、教科書やガイドラインに書いていない自分の失敗から学んだ知恵を伝えたいと思っています。一方で、失敗しないと学べないこともあります。真の指導医はそのような失敗はおおごとにならない範囲で、見守りながら経験してもらいたいと思っています。そしてその失敗からどのようなことを学べば良いのかを自発的に理解してもらえるように導くことを考えています。

そしてそのようなロールモデルとなるようなメンターがいたら、例え遠くても(海外であっても)、給料が安くても、仕事がハードでもそこで学びましょう。そこで学んだことは皆さんの一生の財産になります。

最近は研修制度が整備され、これをあまり語ると嫌われるので述べませんが、昔のように超ブラックな環境もほとんどなくなりました。またガイドラインや専門医制度も整備されて快適に学べるようになっています。でも若いときにHardな道とComfortな道があれば敢えてHardな道を選んでください。これをあまり強調する気はないのですが、若いときにもがきながら悩んで学んだ経験はあなたを強く勇敢にするとともに、一生の財産になります。そして敢えて自分をそのような環境に置く勇気、そしてパートナーにその重要性を理解してもらうことも大切です。

基礎研究も同様です。そもそもなぜ自分が研究をしたいのか、何のために研究をしたいのか、そして研究によってどのように世界を変えることができるのか、背中から学べるメンターを選びましょう。私たちはただ論文を書くために研究をしているわけではありません。医師として研究に従事するなら、病み苦しむ患者さんを少しでも救えるような、そして今の医学の限界を少しても前進させることができるような研究に取り組みましょう。メンターを間違えると、捏造問題に巻き込まれたり、心を病んでしまうこともあります。万一そのようなことに気づいたらいつからでも遅くありませんので、環境を変えましょう。

私の個人的なアドバイスではありますが、これらによって、明日の日本の医療、医学を担う若い先生たちが、高い志を持って成長されることを祈っています。

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